かかり木とは?林業の現場でよくある危険な状態とその対処法を解説!


はじめに

林業の現場でよく耳にする「かかり木」という言葉。これ、実はけっこう厄介な存在です。木を伐ったあと、すんなりと地面に倒れてくれればいいのですが、自然はそんなに甘くありません。伐倒した木が周囲の立ち木などに引っかかって、地面まで倒れずに宙ぶらりんの状態になってしまうことがあります。これが「かかり木」です。

かかり木はそのまま放っておくと非常に危険です。作業員の命に関わる事故にもつながるため、適切な知識と技術で対処する必要があります。この記事では、かかり木とは何か、どうして起こるのか、どうやって安全に処理するのかをわかりやすく解説します。


かかり木とは何か?

かかり木(係り木・懸かり木)とは、伐倒した木が他の立ち木や枝に引っかかり、地面に完全に倒れず、途中で止まってしまった状態のことをいいます。林業の現場では日常的に発生するトラブルの一つであり、「かかっている」「引っかかった」などと表現されることもあります。

この状態になると木が不安定な位置に止まっており、風や地震、ちょっとした振動でも予期せず落下する可能性があります。非常に危険な状態であるため、早急かつ慎重な対応が求められます。


かかり木が発生する原因

かかり木は、以下のような要因によって発生します。

1. 周囲の木が密集している

森林が密集している場所では、伐倒した木がすぐに周囲の木に引っかかりやすくなります。木々の距離が近いほど、かかり木になるリスクが高まります。

2. 伐倒方向の誤り

想定していた方向とは異なる方向に木が倒れてしまうと、予期しない位置で引っかかってしまうことがあります。傾斜、風、木の重心の偏りなどが影響します。

3. 地形や風の影響

斜面や不安定な地形での伐採、また風の強い日は、木が予定通りに倒れにくく、思わぬ方向に倒れてかかり木になる可能性が高まります。

4. 木の癖(ねじれ・反り)

木材には個体差があり、まっすぐ倒れず、ねじれたり反ったりしながら倒れることがあります。これもかかり木の一因です。


かかり木の危険性

かかり木は見た目以上に危険であり、以下のようなリスクがあります。

  • 突然の落下
     風や地面の振動など、予期せぬタイミングで落下することがあり、大きな事故につながります。

  • 高所作業によるリスク
     処理のために木に登ったりする場合、落下や転落のリスクが伴います。

  • チェーンソー作業時の危険
     不安定な場所でチェーンソーを使うと、跳ね返りや不意の動作が生じやすく、非常に危険です。


かかり木の処理方法

かかり木を処理する際は、安全性を最優先しなければなりません。間違った方法で処理しようとすると、状況をさらに悪化させることがあります。以下に代表的な処理方法を紹介します。

1. ウィンチを使用する

林業用のウィンチや牽引機を使用して、安全な方向に木を引き倒します。方向や力加減を誤ると逆効果になってしまうため、経験のある作業員が操作する必要があります。

2. 専用道具を使う

「フェリングレバー」や「かかり木外し器」といった専用道具を使えば、比較的軽装備でも安全に処理が可能です。ただし、使用には基本的な知識と経験が必要です。

事例:かかり木処理中の浴びせ倒しで元口が跳ね上がり激突

発生状況の概要
人工林の皆伐作業中、60代の作業者がスギの伐倒作業を行っていたところ、伐倒したスギ(以下「スギA」)が別の立木に引っかかり、かかり木となりました。
そこで作業者は、別のスギ(以下「スギB」)を伐倒し、スギAに浴びせ倒しを行いました。しかし、その際スギBの元口(根元部分)が跳ね上がり、約1.3メートル離れた場所にいた作業者に激突しました。これにより、

現場の状況と背景
スギAの伐倒では、「つる」と呼ばれる受け口と追い口の間の部分が幅1センチ程度しか残っておらず、倒れる方向をうまく制御できない状態でした。その結果、木が狙いとは異なる方向へ倒れ、かかり木となってしまいました。

また、事故現場の地形はほぼ平坦で、開けた方向(皆伐済みエリア)への伐倒も可能でしたが、作業者は立木が残っている方向に向けて受け口を切っており、リスクの高い伐倒方向を選んでいたことが分かっています。
さらに、スギBの伐倒にはくさび1本のみを使用していたことも確認されており、これが元口の跳ね上がりにつながったと推定されています。

事故の主な原因

  • かかり木に対して浴びせ倒しを行ったこと自体が危険な処理方法でした。

  • 倒木の動きに対して迅速な退避ができていなかったことが致命的でした。

  • スギAの伐倒時に、つる幅が不十分だったため、木の方向を正しく制御できなかったことも要因の一つです。

  • 開けた安全な方向に倒すことが可能だったにもかかわらず、あえて立木の多い方向に伐倒したことが、かかり木の発生につながっています。

防止策と教訓
このような事故を防ぐためには、以下の点を徹底する必要があります。

  1. かかり木に対して浴びせ倒しは行わないこと。
     ウィンチやかかり木外し器など、より安全な方法を選びましょう。

  2. 倒木の動きに備えて、事前に退避場所を確保しておくこと。
     倒れ始めたら、迷わず迅速に退避できるようにしておきましょう。

  3. つる幅は伐根直径の1/10程度を目安に残すこと。
     切りすぎると木の方向が制御できなくなり、非常に危険です。

  4. 開けた方向への伐倒を基本とし、事前にリスクアセスメントを行うこと。
     安全な伐倒方向を選定することが、事故の予防につながります。

この事故は、「経験があっても基本を守らなければ命に関わる」という、非常に重い教訓を私たちに残しています。かかり木の処理には特に慎重な判断と、安全な方法の選択が求められます。


かかり木処理の安全対策

かかり木を処理する際は、以下のような安全対策が不可欠です。

  • 処理作業の前に必ずリスクアセスメントを実施する

  • 作業は必ず複数人で行い、緊急時の連絡手段を確保する

  • ヘルメット、防護服、安全靴などの保護具を着用する

  • 処理中は周囲の作業員を安全な場所に退避させる

  • 処理後も木の状態や周囲の安全を再確認する

これらの対策を徹底することで、事故のリスクを最小限に抑えることが可能です。


まとめ

かかり木は、林業の現場でよく発生する問題のひとつですが、その危険性は非常に高く、軽視することはできません。自然の中での作業では想定外のことが多く、かかり木はその最たる例といえるでしょう。

だからこそ、安全に作業を進めるためには、事前の準備と正確な判断、そして仲間との連携が欠かせません。林業に携わる人々が安心して働けるよう、かかり木についての知識と対応力を身につけておくことが重要です。


参考文献

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